プロジェクトタイトル
都市間関係の新たな展開の探索:震災からの学びとパンデミック後の復興と持続へのチャレンジ
研究ユニット
代表者
メンバー
Adam Doering、Pi-Hsuan Monica Chien、Aaron Tham、上原 史子、金 宰煜、間中 光、永井 隼人
プロジェクト期間
2020年5月18日 ~ 2022年3月31日
プロジェクト概要
訪日外客数の急増,一転してパンデミックによる戦後最大の危機と,日本の観光をめぐる動きが激しい。しかし,過去には,世界的に多くの危機に直面した後に,回復してきたことも歴史的な事実である。背景には,アウトバウンド旅行者を含むツーリズムシステムとしての互酬性が存在したのかもしれない。
本研究では,第二次世界大戦後に始まった姉妹都市交流が平和希求の枠組みとして世界に広がり,地域振興や観光交流,経済交流の機会になったことに着目する。具体的には,第一に,姉妹都市交流の歴史的展開に関する文献から現在の危機に対する過去からの学びを議論する。第二に,日本の震災?災害からの復興時の姉妹都市間の活動を,先行研究を参考に調査し,観光経営のみならず,平和観光や持続可能な観光など多面的な議論を行う。第三に,新たなM(Migration,移住)をキーに安心,安全,健全な仕事環境など生活感を素材とする観光情報コミュニケーションの可能性を議論する。一方,研究方法は,質的調査と量的調査をミックスする混合研究法に基づくが,現在の移動を制限された研究環境の変化に適応した混合研究法のあり方についても議論の対象とする。結果として,学術的には,国レベル,州レベル,地域レベルなどマクロ的な視角からの分析が多い観光経営研究に,都市間関係という個々の関係性に着目したミクロな視角からの議論の貢献点を提言する。また,社会的には,危機に陥った際の回復のきっかけとして,平時からの関係性構築が重要であるとの示唆を提供する。
経過報告(2020年度)
まず,全体の進行としては,コロナ禍で移動が制限されるなかで研究推進の方法について,今年度は,次年度に予定している科研費申請に向けて,オンライン調査や自治体の姉妹都市交流推進団体である(一財)自治体国際化協会(CLAIR,クレア)との連携の模索などを中心に実施することとした。具体的には,6回の研究会を実施したほか,メールやSNS等を使い,頻繁に連絡や議論などを行った。結果,第一に,日本及び海外で活動し,かつ,政治学,経営学,社会学,観光学という学際的なメンバー構成が本研究の特徴であるため,さまざまなアイディアをブレーンストーミングした結果,観光学の基本となる旅行者行動(都市間交流の当事者)と関わってオンライン調査を実施すること,および,社会学や経営学の観点からケーススタディを実施すること,姉妹都市交流の本来の意味について歴史的にレビューすることなどの方向性を抽出した。第二に,背景となる情報として,クレアのWEBサイトの情報から海外事務所を含め,様々な取り組みに関する情報を入手し,オンライン調査等の基礎とした。第三に,学会等の発表では,コロナ禍で調査ができないため,CTR Research Forum 2020において,永井?上原?八島の連名で研究の構想と進捗を発表することとした。
次に,2件のオンライン調査について,目的,概要,意義は次のとおりである。
①自治体の国際交流に関する研究
- 目的:姉妹都市?友好都市交流に着目し,住民の姉妹都市?友好都市への理解,また国際交流事業への参加や意識について理解を深めること。
- 概要:インターネット調査法をクローズド調査として,スクリーニング調査及び本調査の2段階で実施。楽天インサイト(株)に調査委託。仙台市?神戸市?広島市?福岡市に2年以上居住している20代~60代の男女から各都市1000サンプルで合計4000サンプルの回答を回収。なお,この調査は和歌山大学研究倫理審査を受け,承認を受けている(申請者:八島,永井,上原)。
- 意義:観光研究の文献ではこれまであまり議論されることの無かった自治体間の国際交流,またそれに伴う人的交流に関する理解が深まり,今後の学術的議論?研究の発展に寄与することが期待される。また,自治体間の観光交流の促進や今後(特にポスト?コロナ時代)の展開に対する提言が期待される。
②オーストラリアへの短期留学?研修に関する研究
- 目的:日本とオーストラリア間の観光交流,特に若年層の交流促進に向けて,若年層のオーストラリアに対する意識や関わりなどに関する理解を深めること。
- 概要:インターネット調査法をクローズド調査として,スクリーニング調査及び本調査の2段階で実施。楽天インサイト(株)に調査委託。教育旅行による交流に着目し,日本国内の中学校又は高等学校在学中に学校主催のプログラム(修学旅行、研修旅行、語学研修、姉妹校交流など)でオーストラリアに行ったことがある人(グループA)及びオーストラリア渡航経験のない人(グループB)を対象にアンケート調査を実施し,合計1000名の回答を回収した。なお,この調査は和歌山大学研究倫理審査を受け,承認を受けている(申請者:八島,永井,アーロン,柏木)。
- 意義:観光研究の文献ではこれまであまり議論されることの無かったオーストラリアでの教育旅行の実態と経験,またその効果をより正確に理解し,今後の学術的議論?研究の発展に寄与することが期待される。また,日豪間の観光交流の促進や海外教育旅行の発展,また改善に対する提言が期待される。
最後に,次年度への展望を述べる。第一に,自治体の国際交流及びオーストラリアへの短期留学?研修に関わる調査を基盤に,アフターコロナを念頭においた国際交流の意義,日豪間での教育旅行の実態と経験等を解明する。第二に,コロナ禍の移動可能な時期を見計らって,これまでの関係性を強化する事例について,インタビューなどを行い,ケーススタディを念頭に研究を進める。加えて,科研費基盤研究Bへの申請を準備する。
成果報告(2021年度)
2年間のプロジェクト研究による成果として,英語での出版計画をきっかけに収集した情報を整理し,メンバー間で共有したことによって,概念形成の基盤ができた。加えて,オンライン調査や委託調査による情報収集がプレ調査となり,海外ジャーナル等への投稿などに向けた本調査を実施するための基礎を作ることができた。
以下,当初計画で示した3つの課題ごとに成果とその促進要因を述べる。第一に,文献調査と過去の事例等からの学びについて,コロナ禍のなか,基本的にはメンバーがそれぞれに研究を進めた。とはいえ,議論を深めるために,オンラインを中心に議論をする機会を設けた。特に,研究メンバーを国際的な体制としたことが促進要因となり,英語での出版計画を進めている。そのプロポーザルを作成するなかで,メンバー間で議論が活発化し,学際的なメンバー間の情報共有が進んだ。結果として,都市間関係の基盤形成における姉妹都市交流の意義,都市の特徴や特性に基づく多様なコンテンツ,観光を含めた都市間の移動を伴う経済への貢献,移住への展開を要素として概念的に整理することができた。加えて,科研費基盤研究Bへの申請時に利用することができた。
第二に,姉妹都市関係の現状を先行研究との関わりから明らかにすることについて,コロナ禍で実際の現状視察やインタビューは限定的なものになった。しかし,事前準備として,二次資料を使った情報収集と議論を行った。加えて,1年目に4都市における姉妹都市交流への意識調査を行い,基盤となるデータに基づく議論を行った。結果として,現状視察やインタビューでは,収集した情報について,深く考察をすることができた。実際に,代表者が参加した広域連携DMOのグランドデザイン策定会議や観光行政に関わる事業評価において具体的な提言を行う基礎となった。また,国際会議における研究発表に反映することができた。
第三に,都市間交流がきっかけとなる移住への展開に関わる議論について,2つの調査を行った。教育旅行に関わるオンライン調査では,日豪間の教育旅行に関わる促進要因と阻害要因を中心に議論する基礎データが得られた。一方,大阪在住の留学生へのアンケートとインタビュー調査では,友人や親戚などが大阪に訪問する動機や動向を知ることができ,本調査に向けた基盤を形成できた。
今後は,この研究事業で得られた情報やデータを基盤に,英語の出版計画を実現することが1つ目の成果となる。加えて,日本および海外での研究発表や学会誌,ジャーナルへの投稿を進めていく。