プロジェクトタイトル
SDGs達成における観光の貢献~GSTCデスティネーション基準とSDGsとの関係性の検証による観光の貢献度計測手法の考察
研究ユニット
代表者
メンバー
プロジェクト期間
2021年5月19日 ~ 2022年3月31日
プロジェクト概要
今日、観光?旅行分野においてもSDGsはキーワードとなりつつあるものの、何を、どのように推進すべきかを示す統一的かつ具体的な基準がない。このことは、同分野におけるSDGsの取組が進まない、取組が表面的なSDGs(いわゆるSDGsウオッシュ)にとどまっている要因のひとつである。Global Sustainable Tourism Council(GSTC)では、デスティネーション、および、ホテル?ツアーオペレーターを含む観光産業向けの持続可能な観光指標を設定、管理している。各指標の項目には、関連あるSDGsが紐付けされているが、その関係性の根拠は明確ではない。そのため、観光分野において、どのような要件を満たせば、SDGsの達成に貢献できるのか統一的な定義や基準がない。「持続可能な開発のための2030アジェンダ」において、観光分野からのSDGs達成への貢献が期待されていながら、顕著な進展がみられていないのが現状である。本研究では、GSTCのデスティネーション指標(GSTC-D)に焦点をあて、各指標に紐づくSDGsとの関連性を、現地調査により検証する。特に観光の取組において、どのような要件を満たすことがどのSDGsのターゲットに貢献し得るのかを検討する。検証にあたっては、内閣府からSDGs未来都市に選定されている自治体の中から、観光を通したSDGsへの貢献に資する事業を推進する自治体と連携を行い、調査結果による持続可能なデスティネーションマネジメントへの貢献を目指す。
成果報告(2021年度)
本研究では、持続可能な国際観光指標GSTC指標に紐付けられたSDGsのターゲット番号との関連性の理解に基づき、GSTCや持続可能な観光に関わる民間事業者やNGO(EarthCheck, Global Destination Sustainability, Travelyst, Booking.Com)など、持続可能な観光指標における有識者とのヒアリングを行い、持続可能な観光地域づくり推進体制(ガイドラインや指標の策定?管理運営、活用、人材育成、事業者支援)をレビュー、全体ロードマップを策定した。また、SDGs未来都市や持続可能な観光推進における先進地域の取組状況を調査するとともに、各地域でセミナー開催、現場レベルでのニーズについて調査を行った。
結果、SDGsでは、目標8、12、14に観光に関する記載があるが、その記載は主に雇用の増大に関するものである。が、持続可能な地域づくりを進める上で、経済活動である観光が果たす役割は明確?重要である。各有識者は「SDGsの個別目標にとらわれず、環境?社会?経済のバランス良い発展を目指していくことは、初期のエコツーリズム推進から言われていたことであり、SDGsが新規的な視点をもたらしているわけではないが、SDGsという枠組みは、観光の貢献をより明確にするものとして有効である」という考えが主流となっている。観光指標の各項目とSDGsに関連するターゲットとの関係性の整理、要件、具体的な取組事例の提示は、観光を通したSDGs達成の可視化となる。今後、貢献度の計測手法のより提示な提示が求められる。
本調査の成果としては2点が挙げられる。第一に本調査に基づき、サステナブルな観光推進体制として、具体的な提言としてまとめることができた。これは今後、観光庁を中心とする持続可能な観光推進体制への提言として提示していく。ここで調査した事例の中でも、最も効率的であり、かつ日本の状況に適していると思われるのは、スロベニアやフィンランド、タイの事例である。3カ国に共通しているのは、SDGsにも基づいた独自の指標を柱として一貫した支援、推進、人材育成、プロモーションを行っていること、トレーニングを担当する人材が多岐の専門領域にわたり、複数存在すること、そして運営母体が、政府と密接に連携した独立機関であり、その管理運営担当者は(異動のない)長期的ポジションであること、である。この3点は今後日本での持続可能な観光推進をさらに推進していく上で必須の条件となると考える。組織は、政府主導のサステナブルツーリズム推進事業、指標管理?運営、人材育成を、継続して行う機関である必要がある。そこでは政府ビジョンに基づいた、地域やそのサステナビリティ推進人材のみならず、有識者や研修トレーナーなど関連各者を一貫してコーディネートする機能に加えて、国際機関、大学、事業団体などとの広い連携が求められる。
第2に、本調査を基盤とする「持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」のオンラインツールSTART (Sustainable Tourism Assessment & Review Tool)が広くオープンに活用され得るものとなった。本ツールの開発については、独創的研究支援Aの助成を受けた。本ツールは観光事業者を含む、観光地域の包括的アセスメント、モニタリング、人材育成推進ツールとして、単なる「ツール」以上の役割を担って全国で活用されることとなる。この2点における理論的、実践的成果は、観光学(持続観光な観光地経営、地域づくり、人材育成、評価指標)、また持続可能な地域づくりやSDGsの推進への貢献として、社会的意義が大きい。