
和歌山大学教育学部長
山﨑 由可里
<和歌山大学教育学部創立150年周年を迎えて>
今年は、和歌山大学教育学部の前身である和歌山県師範学校の開設(1875年)から数えて150年の節目の年にあたります。この150年の歴史は、1949年の国立大学設置法による新制和歌山大学発足を画期とし、師範学校時代と新制大学(学芸学部?教育学部)時代とのおおよそ75年ずつに大別されます。そして、時代の流れと共に教員養成のあり方には変化が見られます。
現代社会において、子どもたちを取り巻く環境は、経済格差や貧困問題、グローバル化、虐待など、近年の社会背景によって大きく変化しています。しかしながら、時代は移り変わっても、教職は、子どもたちの学習権保障を担い、子どもたちの人間形成に深くかかわり、子どもたちの成長を実感し、自身も子どもたちと一緒に成長できる魅力的な職業です。
<小学校教諭一種免許状取得を基本とする教員養成カリキュラム>
教育学部では、学生達が4年間の学びを通して、時代の変化を見据え、子どもの学習権保障の担い手として成長することを意図し、現在、以下のような特色をもつカリキュラムを設定しています。
まず、2023(R5)年度入学者(今年度3回生)から、小学校教諭一種免許取得が必修となりました。そこで小学校教諭一種免許取得のために必要要件として定められた授業科目を4年間で確実に履修できるよう、従来のカリキュラムを整理しました。そして、小学校に加えて、幼稚園、中学校および高等学校、特別支援学校の教諭免許の取得も可能となっています。
<本学部のカリキュラムおける3つの特色>
(1)入学時ではなく入学後に専攻を決定
1つ目は、専攻決定の方法です。本学部では、実技入試や一部の推薦入学者を除き、1年後期に専攻を決定します。近畿圏の大半の教育大?教員養成学部では、入試段階から専攻を定めています。一方本学部では、入学から1年かけて、高校まで慣れ親しんできた「各教科」に関連する学問の他、幼児教育や特別支援教育、そして教職の基礎となる教育学や子ども理解に欠かせない心理学も学びながら、何を専攻するのか=4年間で深く探究する分野を決定します。
(2)理論と実践の往還を意図した学びの保障
2つ目は、理論と実践の往還を意図した学びの保障です。
大学は、真理を探究し新たな知見を創造する高等教育の場です。「教育とは何か?」と教育の本質を問うこと、学校だけで無く広く教育の諸問題や社会問題に対する知見を得ること、批判的思考法を身につけることなど、大学での理論的?原理的な学びを大切にします。加えて、実践的な学びとの往還を可能とする多様な実習にも取り組みます。例えば、実践的な学びとして、教育ボランティア、ミュージアムボランティア、和歌山県の教育事情を体験的に知り得る小規模校実習(1,2回生)等があります。実践的な学習では、子どもたちから学び、学生同士で協働し、地域理解を深め省察する力の形成を意図しています。
(3)授業以外のことに集中的に打ち込める「アクションターム」を設定
3つ目は、「アクションターム」の設定です。アクションタームに該当する3年次後期に教科共通?教職共通等の必修科目を設定していません(ゼミ、集中講義等を除く)。この時期、副免許の教育実習やへき地?複式教育実習(何れも希望者)に取り組むだけでなく、ゼミでのフィールドワークや、短期留学、教育ボランティア、社会教育施設、子ども食堂や放課後デイサービス等福祉の現場、被災地等でのボランティア活動、卒論執筆に向けての資料収集、読書や映画鑑賞に没頭するなど、授業以外の活動に集中的に取り組むことが可能です。
アクションタームの目的は、「自分磨き」です。学部では地域活動に関する実習(希望者)も設定していますが、学生のみなさんが自ら課題設定をして主体性を発揮し、視野を広げ自らの可能性を切り拓くような活動に取り組むことを期待しています。
<生涯にわたって自分自身と社会をイノベーションする土台づくり>
教育学部は、人文科学?社会科学?自然科学?芸術等、多彩な学問分野から構成されるため、「ミニ総合学部」とも言われます。加えて、全学に目を向ければ、和歌山大学は4学部1学環からなる中規模の総合大学です。学究活動はもとより、教員や他専攻?他学部の学生との交流を通じて、多様な価値観と出会い、あなた自身の考えや経験を相対化し、物事を俯瞰する見方を身に着けることが可能となるでしょう。それは、自分自身を、そして社会をイノベーションする土台づくりにもつながります。私たち教育学部の教職員は、みなさんが主体的に学びを深め成長することを全力でサポートします。